シフトアップのその先へ

最高の相棒と、どんな道も、どこまでも

富士麓ツーリング①

8月後半、土曜日の朝。

 

まだ夜も明けきらぬ茫洋とした薄闇の残る時間帯に、私は久しぶりにバイク装備を身につけ家を出ました。

待ち合わせ場所に到着しほどなくして、ヨシさんの赤いセローが滑り込んできます。

「おはよー」

私が言うと、

「おはよう! なんか久しぶり」

ヨシさんが応えます。

確かに、丸一日かけて行うツーリング自体が約8ヶ月ぶり、人と一緒に走るのなんてそれ以上でした。

「どうする? 下道で行く?」

ヨシさんがナビを合わせながら聞いてきました。なんだかこのやり取りすらも新鮮に感じられます。

「どっちでもいいよ~。私もナビ合わせようかな?」

ヨシさんから行き先を聞いてナビをセットすると、最初の目的地まで一時間半くらいでした。まだ朝早い時間帯なため道路が空いているようです。ならばゆっくり下道で行こうという事になります。

 

ヘルメットを被るやお互いのインカムを繋ぎ、いよいよ出発です。

 

まだまだ暑い時期ですが、走り出したバイクで受ける風は爽やかで心地良いものでした。太陽が照りつける時間帯ではないからでしょう。

『涼しいね~』

私が言うと、ヨシさんが同意してくれます。

『だねぇ。ずっとこのくらいの気温でいてくれたら有難いんだけど』

 

『あぁ~、今から緊張するなぁ』

私のセリフに、ヨシさんがあははと笑い、『無理だったら予定を変更してもいいからね』と言ってくれました。

私と同じように、前方を走るヨシさんもガッチリとプロテクターを装備しています。お互いオフブーツも履いており、すっかりオフロードスタイルです。

そう、今日は林道を走りに行く予定なのです。

 

ここ数ヶ月、プライベートで諸々あり、体調も崩してしまっていたので、ツーリングに出る事自体が難しい状態でした。

ですが少しだけ落ち着いてきたので、久しぶりにツーリングに出たいと思い始めたのです。

とはいえソロでは不安があります。あまりの遠出や長時間のツーリングも体力的に心配だった為、何かの企画に参加するのも踏み出せずにいました。

そこで今回ヨシさんに事情を話し、ご一緒していただく事にしたのです。

ヨシさんは私にどこへ行きたいか、どんなツーリングがいいかをよく聞いてくれ、いくつかの候補が上がる中、以前Kさんが連れて行ってくれた、富士麓の林道ツーリングにすることになったのです。

 

 

『富士林道ツーリング』↓

 

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2021/11/16/051512

 

 

あそこならばフラットですし、場所柄この時期でも涼しく走れ、しかも距離もそこまで離れていません。途中で疲れたら高速を使って帰ってくればすぐです。

私とヨシさんは、Kさんから教えていただいたルートをそのままなぞるように走る事に決めたのでした。

 

 

『もうすぐ最初の休憩ポイントだけど、その前に写真を撮っておく?』

ヨシさんがインカム越しに聞いてきました。

『せっかく富士山も見えているんだから』、と。

同意し、ヨシさんの後に続いてセローを停車させます。

 

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富士山に雲が掛かっており、いまひとつ綺麗に写す事は出来ませんでした。でもヨシさんの提案により、この時バイクを停めて写真を撮っておいて良かったと後から思うことになるのでした。

この後本格的に雲が立ちこめ、富士山がほとんど見えなくなってしまったからです。

 

 

休憩ポイントで水分補給とトイレ休憩を済ませ、いよいよ林道に入る準備です。私達はタイヤのエアを抜きました。

「幾つくらいまで落とした?」

私が聞くと、

「1かなぁ…。いや、0.8くらいまで落としておこう」

ヨシさんの言った数値にまで私もエアを落とします。

しっかり空気を抜いておかないと、タイヤがグリップしてくれないので怖いのです。フラットとはいえ万一のことを考え、できる準備はしっかりやっておきたいと思いました。

 

 

走り始めてしばらくすると、

『じゃあ、そこを曲がったらいよいよオフロードだからね』

ヨシさんのセリフに私は

『うん』

と力強く応えます。

いつもこの瞬間は緊張します。どんなにフラットでも、何度走り慣れた道であっても。

まるでオフロードというそれだけで、いつもは使わない筋肉と神経とを総動員させなければならないかのように。

 

 

あぁ、それでも私はこの先に広がる景色が見たいんだ。

走りたい──。

 

 

深呼吸して、ともすればこわばりがちな両腕の筋肉を、意識して弛緩させます。

 

セローが砂利道へと入り込むや、ステップに立ち上がり流れ込む風を一身に受けました。

 

今日はどんな道なんだろう? 

どんな景色に出逢えるんだろう?

 

恐怖と緊張を抱きつつも、抑えがたい興奮と好奇心とにワクワクしながら、そっとアクセルを開いたのでした。