シフトアップのその先へ

最高の相棒と、どんな道も、どこまでも

富士麓ツーリング②

ダートに入った途端、振動が身体中に伝わってきました。

『…あれ? ここ、こんなだったっけ』

『ん?』

私の呟きに、前方のヨシさんが首を傾げる素振りをしました。

前回ここを走った時には初心者向けのどフラットダートだと思っていたのに、今は砂利による振動が強く感じられたのです。

『なんか、前回走った時より怖く感じるから』

でもそれは、この道の状態が変わった訳でないのは分かっていました。私が数ヶ月ぶりにダートを走っているから、怖く感じているだけなのでしょう。

 

『あ、ちうさん。後ろから車来てるからね』

『え、あ。そうなの? うん、分かった』

立ち乗り姿勢でミラーが見えず後方を確認出来なかった私は、ヨシさんの指摘により道端に寄ります。

待ちかねたように、乗用車が私達を追い抜いて行きました。乗用車の立ち上げる砂煙が、私達に容赦なく降りかかります。

『うわっ、砂煙すごいね~』

ヨシさんのセリフを私は半ば無視してしまいました。

私は砂煙どころではなく、オフロードを走る感覚を取り戻すのに必死でした。

 

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2台目の乗用車から追い抜かれるやほどなくして、舗装路へと出ます。

『あぁ~、なんかダートは充分満足したって感じ』

私のセリフに、

『ホント? なら良かった』

とヨシさんが応えます。

『物足りないって言われたらどうしようかと思った』

あともう一本林道を走るそうですが、そちらの距離はそう長くはないそうです。

『あ! てことは、前回Kさん達と走ったあの林道にも行くの?』

『うん、でもちょっと別の経路にしようと思って。あのガレてた場所は怖いでしょ?』

『そ、そうだね…。ありがとう』

前回Kさん達と走った時、短い距離でしたが少しガレていた部分があったのです。その時も怖いと感じたので、今の私であそこは到底無理だと思いました。

ヨシさんはそれを見越して、そこを走らず済むようルートを考えてくれていたようでした。

『なんか、ありがとうね。そこまで考えて貰っちゃって』

『いいんだよ』

 

道は再びダートに入ります。先程よりも砂利が大きく、アップダウンもあります。ですがガレ場や陥没もなく、感覚を取り戻して来たのもあり、だいぶゆとりを持って走る事が出来ました。

『前回はこの辺りで写真撮ったよね』

『あ、そうだねぇ』

『あの時は富士山が綺麗だった』

『あれ? そう言えば富士山は?』

言って富士山の姿を求めて見回すも、頭上の空はすっかり雲が厚くなりそのシルエットすら見えません。

少しだけガッカリしながらも、道端にバイクを停めてまた写真を撮ります。

 

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これはこれで素敵な写真が撮れました。

 

 

走り出してしばらくすると。

『あっ』

『ちょっ…急に止まんないでよ!』

停止したヨシさんの後ろで私は、タイヤを滑らせながらなんとか停まり、キレ気味に怒鳴りました。

『全然急じゃなかったんだけどなぁ』

笑いながら言ったヨシさんが、『ところであれ、どう思う?』と前方を指差しながら聞いてきました。

見ると、大きな水溜まりのような、走行が困難と思えるような情景が広がっていたのです。

『あれは…私、無理かも』

『ちょっと俺、見てくるよ』

走り出したヨシさんが、『ちうさんはそこで待ってて~』と言ってきました。

『あ、全然大丈夫だよ。これ、アスファルトだった』

ヨシさんの言葉に安心し、私もバイクを走らせます。どうやら、部分的にアスファルトが覆っていた為、光の反射で水溜まりのように見えていたようでした。

 

一寸先には何があるのか分かりません。

ヨシさんが先導でこうしてフォローしてくれたので、私も安心して走る事が出来ていました。

 

あ、でも。

さっき怒鳴っちゃったのは悪かったなぁ。私が車間距離を取ってなかっただけなのに。

 

脳内で反省しつつも、結局謝るタイミングを逃してしまいました。

 

その後。

砂地にタイヤが取られそうになりパニックになったり、照明のないトンネル内での凹凸に悲鳴を上げながら走ったりと、騒々しくツーリングは続きます。

 

『じゃあ、ダートはここまでだよ~』

『あ~良かったぁ』

心の底からホッとしながら私が言います。自分で言っておいて、吹き出してしまいました。

『私、嫌いなんかなぁ? オフロード』

ヨシさんが笑いながら賛同します。

『まるでそうっぽい言い方だね』

 

ダートに入る前は気が重くなり緊張し、走り出してからは恐怖しあらゆる物事に警戒し。ダートはもうこれで終わりだと聞くと心の底から安堵します。

そんなに嫌ならば走りに行かなければいいのに、何故かまた走ってしまっているのです。

 

 

度胸試しがしたいわけでも、刺激を求めている訳でも決してないのです。

 

 

ただ私は純粋に、セローと共に走りたいのでしょう。セローが走れる道を、オフ車じゃないと走れないダートを、安全に楽しくマイペースに、ただ純粋に味わいたいだけなのかもしれません。