シフトアップのその先へ

最高の相棒と、どんな道も、どこまでも

富士麓ツーリング 最終章

ダートを抜けると、なだらかな舗装路へと出ます。

『俺ここの景色好きなんだよね』

『うん、私も~』

丘が連なる場所へと出ました。

ここは春に来れば若葉が美しく、秋はススキが一面に広がるのです。今は夏なので、色濃い緑の草々がさわさわと風に揺られていました。

 

山道に入り、連続するカーブを走り抜けていきます。

『後ろのバイクに道譲る?』

ヨシさんが聞いてきました。

『う~ん…譲りたいけど』

ミラーを確認しながら私が言います。

道も細くカーブが続くため、譲るのも難しそうです。何より、後ろのバイクからは私達の速度に苛立っている様子が感じられません。

『いいんじゃないかな? 抜きたければ強引にでも抜いて行くでしょ』

結局、見知らぬバイクと3台、なだらかなワインディングを進みました。ツーリングではよくある事です。

『涼しいね~』

『うん、風が気持ちいい』

 

 

やがて到着したジンギスカンのお店。

ここも、以前のツーリングでKさんから教えていただいた場所です。

富士山が見える場所にバイクを停めました。

 

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「もう開店してるかな?」

お店の入口を見ながら私が問うと、

「あと数分で開店だね~」

とヨシさんが答えます。

開店時間になり店内へと入ります。広いお店でしたが、さすがにお客さんは私達だけでした。

 

2人前のジンギスカンを注文します。

 

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ジンギスカン鍋が、ジュージュー音をさせながら野菜や肉を加熱していきました。

「美味し~。いくらでも食べられそう」

頬張りながら私が言うと、

「ちうさん、いつもそう言うけど突然満腹になるよね」

と笑われてしまいます。

 

食後にソフトクリームも食べます。

 

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味の濃厚な美味しいソフトクリームでした。

 

バイクに戻り、外していた装備を取り付けながらヨシさんが言います。

「さて。じゃあ、洗車して帰ろっか」

「うん」

まだ早い時間帯。ツーリングの終わりとしては物足りないくらいの距離しか走っていません。

でも私の身体もまだ本調子ではありませんし、久々のロングツーリングなこともあり、今日は早めに解散する事に決めていたのです。

実際、私の身体は疲れを感じ始めていました。

無事に帰るまでがツーリング。無理は絶対に禁物です。

 

 

でも。

「ごめんね。ヨシさんはまだ全然物足りないでしょ」

「なんで? 俺は充分満足だよ~」

朗らかに笑うヨシさんの言葉が有難かったです。

 

 

「ちうさん、しっかりホース握っててね」

「う、うん」

洗車場に到着した私達は、セローを並べて停めました。コインを投入しながらヨシさんにそう言われ、私は手渡されたホースをセローへと向け、しっかりと握り締めます。

やがて高圧洗浄機から吹き出される水が、2台のセローの砂埃を落としていきました。

セローが綺麗になると、私まで清々しい気分になるのですから、バイクというのは不思議なものです。

 

『相棒』だからなのでしょう。

 

狭められた世界で鬱屈としていた私の日常を、これでもかと優しく穏やかに、でもグイグイと広げてくれた大切な相棒。

 

二輪免許を取得し、セローを納車し初めて外を走ったあの時。

広がる景色のあまりの美しさに、涙が止まらなくなった事を今でもはっきりと覚えています。私の人生に、こんな素敵な出逢いがあったのかと。外の世界はなんて広いんだろうと。

公道を走る怖さより、もっと色んな景色に出逢いたいという欲求が勝りました。

残念ながらその感動は、ツーリングを重ねる毎に薄れていきました。でもツーリングのたびに、新鮮な発見やドラマがあり、癒しや驚き、そして学びがありました。

 

 

道は、常になだらかとは限りません。

時には渋滞にハマり、通行止めにUターンしたり、大きな陥没や落石があったり。土砂降りに見舞われ視界が奪われる事だって珍しくありません。

だけど。

 

自分のペースで、私らしく。

最高の『相棒』と共に、これからもどんどん、ツーリングを楽しんでいきたいです。

 

ヨシさんと手を振り別れるや、ピカピカになったセローに跨り、帰宅すべくエンジンを始動させながら、改めてそう思ったのでした。