ダート走行では、自分の吐く息でヘルメットのシールドが曇ってしまいました。
砂埃が舞う中、シールドを少しだけ開けて走行します。
やがてダートを抜け、舗装路に出たのでホッとひと息吐きました。
急勾配を上がり、御荷鉾山展望台に到着します。
バイクを停めてヘルメットを脱ぐと、軽く首を振って肩の凝りをほぐしました。
「わぁ~! 今日は景色が綺麗ですね」
御荷鉾山には何度か来ていますが、今日の眺めは最高でした。
空気は澄み、連なる山々が鮮やかに見渡せます。
ですが、私のそのはしゃいだ声に賛同の声が少なかったのは、ダートを走ってる道中、他の皆さんがそういった会話を既に交わしていたからでしょう。
私は運転に夢中で景色を眺める余裕がなかったので、今更そこに気が付いたのでした。
展望台でお昼休憩を取ることになりました。
各々がお湯を沸かしてお昼ご飯を用意します。
熱湯を注いだ熱々のご飯を食べながら、過去のツーリングや各林道の路面情報などが交わされます。
「私、御荷鉾山はこれが最後なんでしょうね…」
会話が途切れたタイミングで、私がポツリとこぼします。
御荷鉾山は、冬の間は閉鎖されてしまいます。そして来年の春に開かれる頃には、私は関東から引っ越して行く予定なのです。
それはあきにゃんさんやよねってぃさん、ヨシさんにも伝えてありました。
「ちうさんは何月頃に引っ越すんですか?」
あきにゃんさんの問いに、
「来年の3月の予定です」
と答えました。
「あ」
隣のヨシさんに目を向けて言いました。
「これからも、ヨシさんをツーリングに誘ってあげてくださいね」
あきにゃんさんやよねってぃさんに言いました。
「いやぁ。ガチのオフロードは怖いんで、フラットの時だけお誘いお願いしま~す」
ヨシさんの言葉に、笑いが起きました。
午後からどうしようかと話しましたが、正直私は久々のオフロードで疲れきっていたのでそう伝えました。
「すみません。皆さん本当はもっと走りたいんでしょうけど…」
私が言うと、全員手を振って笑ってくれました。
「いえいえ大丈夫ですよ。では、帰りながら走りましょう」
あきにゃんさんがそう提案してくれました。
帰りは、あきにゃんさんの先導で走りました。
静謐な峠道を、4台のバイクが滑らかに走り抜けていきます。
ああ、楽しいなぁ。
心からそう思えました。
仲間と一緒に走れることも、日常にない景色を眺められることも、山で熱々のご飯を食べられることも。その全てがキラキラと輝いています。
御荷鉾山には何度楽しませてもらったか分かりません。
初めて怯えながら走った後も、濃霧で先の見えない中で走ったり、小雨に降られたり、大人数でワイワイ走りに来た事もあります。
それも、今回が最後なのだと思うと、カーブの一つ一つが愛おしくさえ感じられました。
あきにゃんさんは長野方面に向かうとの事で、途中で別れました。
ヨシさんを先頭に、299号線を3人で走り抜けていきます。
ふと呟きました。
「私、生まれも育ちも山形ですけど、当然だけどバイクで故郷を走ったことはないんですよね。山形に帰ったら、また楽しそうな道を自分で発掘していかなきゃいけないですね」
『そうだねぇ』
ヨシさんが言い、
『でも山形なら、林道も多そうですよね』
とよねってぃさんも応えました。
「う~ん、そうなんですけどね。関東みたいに林道が整備されてるかどうかが分かんないんですよね」
路面状態の分からない林道に、たった一人で入っていく度胸が私にはありません。
きっと渋滞知らずのあぜ道を、のんびりトコトコ一人で走ることになるのでしょう。
関東にいられるのもあと数ヶ月。
心残りがないよう過ごしていきたいです。
残りの貴重な時間を、こうして一緒に走ってくれた3人には、心から感謝します。